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本物の花柄を着飾る。森永邦彦がANEVERに込めた思い

ANEVERANEVERANREALAGEオンワードクローゼットマグ

日本を代表する気鋭のファッションブランドANREALAGE(アンリアレイジ)。
同ブランドとオンワード樫山がタッグを組み、新ブランド「ANEVER(アンエバー)」をスタートした。

最大の特徴は、「本物の花」を樹脂のなかに閉じ込めたパーツを、ほとんどのアイテムで採用していること。さらに、ミューズ(ブランドを象徴するモデル)に女優・歌手の平手友梨奈氏を起用したブランドビジュアルも、大きな話題になった。


ANEVERはどのような想いから生まれ、どんなブランドを目指しているのだろうか。世間の関心を集めたビジュアル制作の裏話なども含めて、ANREALAGEのデザイナーでANEVERを手掛ける森永邦彦氏に話を聞いた。
(※本記事は株式会社CINRAが制作しています)

本物の花を樹脂のなかへ。ANEVERのコンセプトとは

—まず「ANEVER」がどんなブランドなのか、簡単に教えていただけますか?

森永:「A NEVER(=一瞬)」と「AN EVER(=永遠)」という言葉が共存するブランド名のとおり、「対極の概念をつなぐプロダクト開発」がANEVERのコンセプトです。多様性がある時代のなかで、固定概念にとらわれずに自然の流れを大切にしながら、自分らしい価値観や生活を開花させたい女性に向けてプロダクトがつくりたい。そう思って、このブランドをスタートさせました。
森永邦彦さん
ロゴマークは、一桁の数字のなかで対極の「0」と「9」の組み合わせによる花のかたち

森永:ANEVERのアイコンとなるのは、「本物の花」を樹脂のなかに閉じ込めたパーツです。本来ならば時間の経過とともに枯れてしまう花を、特殊加工で樹脂に閉じ込めることで、美しい状態が永久的にキープできる。つまり、花が持つ「瞬間的な美しさ」に「永遠の時間」という対極の魅力を合わせた一点物のパーツなのです。これを、ほぼすべての商品にあしらっています。
バッグの持ち手やアクセサリーに使用されている、本物の花を埋め込んだ樹脂
バッグの持ち手

—花を樹脂に閉じ込めれば、何百年先でも残すことができると。たしかに、「本物の花」が埋め込まれていると思うと、ずっと大切にしたくなりますね。

森永:はい。世の中には花柄の服や小物はたくさんありますが、「本当の花柄」はありませんよね。それこそが新たな価値になるし、花の瞬間的な美しさを永遠の時間に閉じ込めることで、さまざまな人に共有されたり、受け継がれたりすることを期待しています。

モデルに平手友梨奈を起用。決め手は、相反する魅力

—ANEVERがローンチされた2021年3月17日には、ブランドの世界観を表現したイメージビジュアルも公開されました。本物の花や自然がモチーフになっていて、まさにANEVERのコンセプトを象徴する仕上がりですね

森永:ビジュアルとムービーで重要視したのは、「花という自然の一部を切り取り、身につけられるものにする」というブランドコンセプトを、いかに落とし込むかです。

ビジュアルのアートディレクターを担当してくださったのは、斬新な作品を数多く生み出してきた吉田ユニさん。同じように見えても、じつは一つひとつが違う「花」の個性をグラフィックで伝えたいという要望をもとに、相応しいビジュアルをつくっていただきました。ムービーにおいても、音楽を担当しているサカナクションの山口一郎さんに、瞬間的な音と長く続く音の双方を組み合わせて、「永遠と一瞬」を表現してもらっています。
吉田ユニさんが手がけたイメージビジュアル(Photographer : Hiroshi Manaka)
ビジュアルと同時に公開されたムービー『ANEVER-VISUAL MOVIE MARCH-』(YouTubeより)

—ビジュアルやムービーのモデルに、女優・歌手の平手友梨奈さんを起用されているのも印象的でした。平手さんはANREALAGEのモデルにも、たびたび起用されていますよね。

森永:そうですね。ただ、ANREALAGEのときは、強い女性像を求めることが多いのですが、今回のANEVERでは芯の強さがありつつ、しなやかさや儚さといった部分も必要になると思っていました。

平手さんは、ちゃんと自分を持っている「強さ」がある反面、繊細で儚げ、ピュアな雰囲気も漂わせている稀有な方。相反するエッセンスを同時に表現できる彼女こそ、ANEVERの掲げている女性像やコンセプトに非常に近い方だと思い、モデルをお願いしました。平手さんご自身も花が好きで、よく部屋に飾ったり、花言葉を調べたりしているそうです。

—たしかに、ANREALAGEのモデルのときとは、また違う印象です。

森永:平手さんご本人から、「ANREALAGEのときとは雰囲気を変えたほうが良いですよね」と言ってくれて。ANREALAGEのときは黒髪でしたが、ANEVERのビジュアル撮影時に向けて、髪を明るく染めていただき、主体的に関わってくれました。おかげさまで、花のような可憐さと柔らかさ、自然が持つ純粋な美しさというANEVERのブランドイメージがとても伝わりやすくなったと思います。コンセプトに合わせてビジュアルをチューニングしてくださるところが、プロフェッショナルだなと感じました。
4月20日に新しく公開されたビジュアル(Photographer : Hiroshi Manaka)
4月20日に新しく公開されたビジュアル (Photographer : Hiroshi Manaka)
—2021年4月20日に新しく公開されたムービーでは、平手さんがダンスを披露していますが、振りつけには何か狙いがあったのでしょうか?

森永:ダンスに関しても、ANEVERからはブランドのコンセプトだけを伝え、振りつけは平手さんチームに考えていただきました。ムービー公開時期に発売予定のアパレルのドレスを纏って、花が咲いたり萎んだり風に吹かれたりするように服も踊っていて。瞬間的な動きと流れるような一連のダンスは、緩急が効いていてとても魅力的です。「一瞬と永遠」を見事に表現し、ANEVERのブランドそのものを捉えていると思います。
平手さんが、ANEVERのコンセプトをもとに振りつけされたダンスを披露したビジュアルムービー
ビジュアル撮影の舞台裏などを収録したバックステージ動画。平手さんが感じたANEVERの魅力を語るシーンや、森永さんがANEVERに込めた想いなども収録されている

多くの人に届けたかった。オンワード樫山と組んだ理由

—ところで、そもそも「樹脂のなかに本物の花を閉じ込めよう」と考えたきっかけは何だったのでしょうか?

森永:中学生の頃に見た映画『ジュラシックパーク』のあるシーンがずっと記憶に残っていたんです。古代の恐竜の血を吸った蚊が、樹液のなかに閉じ込められて現代にまで残っているというシーンで。当時、衝撃を受けたその場面に着想を得て、ANREALAGEのブランド設立初期から樹脂のなかに花を閉じ込めたボタンを制作してきました。ボタンから派生した樹脂アイテムのシリーズ自体は、ANREALAGEでもある種の定番となっていましたね。

—もともとANREALAGEでもつくっていたものを、なぜオンワード樫山と組んで新ブランドとして展開することにしたのでしょうか?

森永:樹脂のプロダクトの可能性を、もっと広げたい気持ちはありました。一方で、コレクションブランドとしてつねに新しい挑戦をすべきであるANREALAGEで、同じことを繰り返し取り組み続けることには、少し違和感があったんです。

自分のなかでも折り合いがつかない、相反する感情を抱いていたタイミングで、オンワード樫山さんと出会いました。オンワード樫山さんも、ぼくらが培ってきた樹脂シリーズに魅力を感じてくれて、協業して何かできないかという話になり、新ブランド「ANEVER」としてスタートすることにつながったのです。
—ANREALAGEでこれまで制作してきた樹脂のアイテムと、ANEVERとしてつくるものは、どういった点が違うのでしょうか?

森永:ブランドコンセプトの考え方やものづくりへのこだわりは似ていますが、プロダクトの打ち出し方は大きく異なります。ANREALAGEでは「非日常」を重視し、誰も想像したことのないものや、出会ったことのないものづくりを意識しています。そのため、強く共感してくれる人に届いてほしい思いがある。

一方でANEVERは「日常」の要素が強く、日々の生活に花を添えるようなプロダクトを身につけてもらいたいと考えています。誰の日常にも寄り添うプロダクトとして、より多くの人に届けたいという思いがある。だからこそ、生産や販路において、強い基盤と知見がある大手アパレル企業と手を組むべきだと思いました。

そういった意味でも、0から1をつくることが強みのANREALAGEと、1を100にする力を持つオンワード樫山さんが組めば、両者にとってこれまでにない製品をたくさんの人に届けられると感じています。お互いの強みをうまく活かしながら、ANEVERを育てていきたいですね。

一点ものを多くの人に。新しい量産のかたちに挑戦したい

—とはいえ、オンワード樫山とは企業風土もかなり異なると思います。一緒にものづくりをするうえで、困難などはありませんでしたか?

森永:もちろん、お互いにものづくりのスタイルが違うので、最初は認識をすり合わせることに充分な時間を使いました。とくに、ANREALAGEがこれまで大切にしてきた、人の手で花を摘んで樹脂に入れ、丁寧に磨いてかたちにするというアナログな手法は量産に向いていませんからね。

ただ、その行程を機械化・合理化はしたくなくて。花というものにひとつとして同じものがないように、プロダクトも一点一点異なるものにしたかったんです。「ひとつのプロダクトを多くの人に届ける」という従来の量産方法ではなく、「一点物のプロダクトを多くのお客さまに届ける」という、新しい量産のかたちに挑戦したいと考えていました。
—具体的にはどんなことを行ったのでしょうか?

森永:まずは、実際の制作現場にオンワード樫山さんのデザイナーから営業、社長まで来てもらい、樹脂のアイテムがどれだけ手間を掛けて大切につくられているのか、ぼくらがANEVERを通じて何をしたいのかを共有することから始めました。その後も、大事にすべき思いやスタンスをすり合わせながら、理想的な量産のかたちを探りました。結果的に、しっかりと手の込んだ一点物を、より多くの人に届けられる仕組みをつくることができたので良かったです。

花のように、日常を彩るブランドになりたい

—ANEVERがローンチしたときの第1弾プロダクトとして発表したのは、洋服ではなくバッグとアクセサリーでしたね。ANREALAGEでも小物は展開されていますが、やはり森永さんといえば服づくりの印象が強かったので、少し意外でした。

森永:ブランドのローンチ時に小物のみの展開にしたのは、コロナ禍に重なったことも大きいです。外出が規制されるなかで、多くの人が家に閉じ込められている気分になっていた。そういった状況下で、花を家に飾ったり、誰かに贈ったりする価値が高まっていたと思います。その流れで、ANEVER自体が花のようなブランドになったら嬉しいなと。ですから、部屋に飾ったり、誰かに贈ったりしやすい小物から始めたのも理由のひとつです。
2021年3月に発売された、レザーミニショルダーバッグ

—2021年4月20日に発売の第2弾のプロダクトでは、12色展開のトートバッグや、ANEVERとしては初の洋服も展開されますね。

森永:第2弾以降のアイテムからは、樹脂のものも展開しつつ、樹脂以外の方法で花の美しさや魅力をプロダクトに落とし込むチャレンジもしていきます。たとえば、第2弾として発表した12色展開のトートバッグやTシャツは、まさに樹脂ではない手法のひとつで、月ごとに決まっている「誕生月の花」の色をベースにつくっています。

今後も新商品を毎月出していくつもりですし、ポップアップやコラボレーションも積極的に行っていく予定です。ANEVERではプロダクトを通じてお客さまの声を丁寧に拾い、そのご意見をもとに商品を毎回アップデートさせて、愛されるブランドへと成長していきたいです。きっと、100年後も人は花を見て「美しい」と感じるはず。そんな花と同じように、いつまでも日常に彩りを与えられるブランドになれたら理想的だな、と思っています。
トートバッグは、それぞれの誕生月の花の色の構成比を分析し、ボーダーの色と幅で表現
花を樹脂のなかに閉じ込めたボタンが、首後ろについているTシャツも発売する。花柄のポーチに入れて展開
2021年5月27日に発売予定のリング
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■公式ファッション通販サイトONWARD CROSSET [ANEVER]
https://crosset.onward.co.jp/shop/anever
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Photo:Keta Tamamura
Interview & Text:Shin Ishizuka
Edit:Masaya Yoshida(CINRA,Inc)


■PROFILE

森永 邦彦 KUNIHIKO MORINAGA

1980年、東京都国立市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりを始める。2003年「ANREALAGE(アンリアレイジ)」として活動を開始。2005年、ニューヨークの新人デザイナーコンテスト『GEN ART 2005』でアバンギャルド大賞を受賞。同年、東京タワー大展望台にて2006春夏コレクションをKeisuke Kandaとともに開催。以降、東京コレクションに参加。2011年、『第29回毎日ファッション大賞』新人賞・資生堂奨励賞受賞。2015春夏よりパリコレクションデビュー。2020年秋冬、日本人デザイナーとして初めてFENDIとのコラボレーションを実現。2021年3月より、オンワード樫山とコラボレーションした新ブランド「ANEVER(アンエバー)」をスタート。