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知ることで安心できる「更年期」の意味から対処法まで

毎日の生活の中で、気になるけどよくわからないことは意外と多いもの。それらを徹底的にリサーチする不定期連載。MAG編集長・溝手が専門家に根掘り葉掘り質問します!1回目は「更年期」。

30代後半あたりから気になる「更年期」という言葉。その言葉だけが一人歩きする中、きちんと知ることで余計な心配や回り道をしないでいいはず。
産婦人科医・心療内科医の小野陽子先生に、更年期症状や更年期障害の意味、原因や症状、対処法などを伺いました。

監修:小野陽子

【PROFILE】
医学博士、産婦人科専門医、心身医療専門医、日本女性心身医学会認定医、女性医学会専門医。
岩手医科大学医学部卒業。聖路加国際病院女性総合診療部、東邦大学医療センター大森病院心療内科を経て、現在はAddots GINZA「女性のこころと体の相談室」開設準備中。体と心の両面から女性の健康を支え、女性ホルモンの影響を受けやすい女性の心の不調の診療を中心に行う。

そもそも更年期ってなに?いつ頃くる?

 更年期は、閉経をはさんでその前後5年ほど、合計10年間の期間のことを指します。
閉経とは、最後の月経がきてから1年間一度も月経がない状態を指します。そのため、月経が不定期であるうちは閉経ではありません。
このことから、例えば48歳で閉経した場合、初めて自分は43歳から更年期だったことがわかります。更年期の最初の5年間は後から知るということになるのです。

では何歳ごろに閉経が訪れるのかというと、日本人女性の平均閉経年齢は50.5歳。それを考えると40代後半から50代前半あたりが更年期という時期にあたる、という方が多いことになります。
40歳以上であれば閉経を迎えることは異常ではありません。そのことから、早い人は30代後半から更年期が始まっていてもおかしくないということになります。

出典:日本婦人科学会編: 参加婦人科用語集・用語解説集改定 第4版:2018.330

更年期障害はなぜ起こる?

 更年期障害は、女性の中にある2つの女性ホルモン「エストロゲン」と「プロゲステロン」が、更年期に急激に減少することが一番大きな原因です。
これは、女性ホルモンが実際に減るというメカニズムですが、必ずしもそれを測定し急激な減少を数値で確認しないと更年期にあたっているかどうかがわからないというわけではありません。
例えば今までと違って、“月経が不順になってきた””月経の周期が変わってきた”といったことで、自分自身が体感がすることでも更年期にあたっていることがわかります。

 更年期の女性ホルモンは、急激な減少に加えて揺らぎが起こります。更年期前は女性ホルモンが規則的にアップダウンを繰り返している状態に対して、更年期は上の表にあるように上がりすぎたり下がりすぎたり、出ていないタイミングがあったりと、不規則になるのです。
そして、最終的には女性ホルモンが出ていない状態になリます。このアップダウンが激しい時期が更年期であり、身体的に疲れたり、心理的にもしんどいと思うようになったりするのです。

更年期症状で日本人に多いトップ3とは

 更年期症状には大きく分けると4つの項目があります。

 [血管運動症状] 寝汗/ホットフラッシュ/冷や汗/睡眠困難 など
 [心理的症状]  イライラ/抑うつ/不安/集中困難 など
 [身体症状]   肩こり/疲労感/頭痛/めまい/腰痛 など
 [性的症状]   性への興味喪失/性行疼痛/膣の渇き など


 よく聞くのがホットフラッシュや気持ちが落ち込む、イライラするなどといったもの。実は、日本人に多い症状トップ3は、「頭痛」「肩こり」「倦怠感」です。普段よりもこれらの症状が抜けないという場合は、更年期症状である可能性もあります。また、更年期症状は元々自身の体の弱いところが今までもよりも強く出る傾向があります。頭痛になりやすい人は、頭痛症状が頻回に出現したり、元々めまいが起きていた人はそれが増強する可能性があります。
 更年期症状で日常生活に支障が出るほど辛いという場合は、「更年期症状」ではなく「更年期障害」として、治療の対象になります。

 更年期の期間は閉経前後5年ずつでトータル10年ということはお伝えしましたが、その中で症状が起こるかどうかは個人差があります。また閉経前に起こる人、閉経後に起こる人がいて、いつ症状が出るのかについても人それぞれです。10年という更年期は誰もが等しく同じですが、症状が出ない人もいるのです。ではどのくらいの人が症状を感じているのでしょうか?

出典:NHK「更年期と仕事に関する調査2021」(スクリーニング調査)の女性標本(n=29,505)より集計

 上のグラフをみてもわかるように、40代後半で更年期症状がある人は約32%、50代前半が45%という結果となっています。逆を言えば40代後半では約68%の人が、50代前半では約55%の人が更年期症状を感じていないことがわかります。
このことからも単純に更年期が来るのが怖い!と思うのではなく、更年期という期間に日常生活に差し障りがあるほどの障害が出た場合は、症状を緩和する方法があることも知っておいて損はないでしょう。

実は更年期症状や更年期障害は、ストレスと深い関係がある

 更年期障害は、心理的な影響や社会的な環境が密接に関わったことであらわれる、代表的な心身症の一つです。心身症とは、いわゆるストレスがかかって体に症状があらわれる病気です。
育児や介護、家庭の問題や職場での負荷などで起こるストレスが強く影響しており、またストレスを感じやすい人の方が更年期症状が強く出ます。単なる女性ホルモンの変動だけではなく、心理社会的ストレスが更年期障害に関して無視できないものになっているのです。
 更年期障害が身体的な変化と社会的なストレスなどが複雑に絡み合い、ストレスを背景にした病気であるということを踏まえた上で、それを軽減していくことが必要です。とかく日本人は休養を取ることが負けであったり、悪いことという風潮がありますが、会社や家庭において休養を取れるような仕組みを作ることがとても重要なのです。

治療法や症状緩和をするには何が有効?

 女性ホルモンが影響しているので、それをうまく調整してあげることも有効な方法です。
そのひとつが漢方薬やサプリメント。

● 漢方薬:体質に合わせて全身の機能を調整して、改善を促すもの
● サプリメント:栄養素の補給など

それぞれ特徴は違いますが、漢方薬を使ってみたいと思ったら、自身の体の体質(証)に合わせたものが良いので、東洋医学の専門機関を受診した方がいいでしょう。
サプリメントは、女性が不足しがちな鉄やビタミンを意識的に摂ることがおすすめです。
鉄は、健康診断上では正常値になっていても、実は肝臓や筋肉にストックする「貯蔵鉄(フェリチン)」が不足している場合があります。鉄が足りていないと、気分の落ち込みにつながりやすいというデータもあるので、鉄不足には注意しましょう。ビタミンについては時短で摂り入れやすいマルチビタミンサプリでもいいので、家事や育児、仕事といった忙殺される毎日の中で手軽に利用できるものを活用しましょう。また、更年期の女性に良いと言われ、最近取り沙汰されているのが大豆イソフラボン。大豆イソフラボンが腸内細菌の力で変換されて生まれる成分が、エクオールです。このエクオールが、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があり、更年期の症状を緩和してくれるという報告が多くあります。豆腐や納豆などの大豆製品がいいとよく言いますが、実は大豆製品を食べても大豆イソフラボンからエクオールという成分を生成できない日本人女性が約半数います。それは尿検査で簡単に検査はできますが、生成できたとしても1〜2日で体外に排出されるため、サプリメントで手軽に摂り入れるというのも一案です。

 2つめの方法としてはホルモン補充療法(HRT)。更年期の症状が辛くなるのは女性ホルモンが急激に低下するのが原因です。そのため、その女性ホルモンを少しだけ補充してあげるのがHRTです。HRTは、体に負担のない量でホルモンを補充するもの。更年期の症状が落ち着くだけでなく、年齢とともに減少する骨密度を上げる作用にもなり、増えてくる高脂血症を予防する役目も担っています。HRTにはいくつかの方法があります。例えば塗り薬、貼り薬、飲み薬など。皮膚から吸収される方がより高脂血症が予防できるというデータもあり、手軽に続けられるという面からも塗り薬が人気となっています。
  HRTと低用量ピル(OC)を混同しがちですが、低用量ピルの方が女性ホルモン量が5、6倍多く、月経困難症(月経痛)や過多月経、月経前症候群(PMS)の症状がある方に有効です。特に産後の女性にはPMSが非常に多く、育児中に完璧な母親を目指すあまり、ストレスを抱えてPMSの症状を引き起こしたり悪化させる人は少なくありません。実は女性ホルモンがしっかり出ている人こそ、PMSの症状が出ます。更年期にある女性ホルモンの乱れがあるからPMSが起こるわけではありません。ここをしっかり区別して、妊娠希望のない方はピルを服用して、女性ホルモンのアップダウンを落ち着かせることでPMSの症状が落ち着いてきます。

【ピルとホルモン補充療法の違い】
OC(低用量ピル)・・・月経不順、過多月経、月経困難症(月経痛)などに有効
HRT(ホルモン補充療法)・・・更年期症状、骨量減少、高脂血症などに有効


 そのほか薬以外の治療法として、認知行動療法があります。心身症である更年期障害はストレスが影響しているので、そのストレスが何であるか、それをどう発散するのかを認識していくことが大切です。例えば、今の仕事がストレスで自分にあっていないのでは?という人もいれば、人間関係がちょっと辛いと感じている人もいると思います。そういった場合はその環境を変えていく、環境が変えづらいのであれば、ストレス発散法を見つけるというものです。更年期障害には、そういったアプローチも有効になります。ストレスをどう対処していくのか、更年期世代の女性にとってはとても重要になってくるのです。

更年期障害が理由の離職率は高く、経済損失は約4000億円!?

 更年期障害を理由に休暇を取りたいけど、休むと減給されるなど休みづらい昨今。また、家庭内でも家事や育児を休めないという現実も。そのため、更年期障害を理由にした離職率は高く、2020年の調査では年間およそ28.3万人〜45.9万人、その経済損失は1848億円〜4196億円と言われています。
これらのことから、公的な機関や企業などが更年期症状や障害時の様々なサポートをすることで、結果として経済的にもプラスになることがわかります。

男性にも更年期はある? 答えはYES

 男性にも更年期にあたるものはあります。更年期障害という言い方はしませんが、「加齢男性性線機能低下症候群」というもの。専門は泌尿器科になりますが、症状としては睡眠の質が下がる、性欲が下がるなど。これは男性ホルモンが急激に低下することによって起こるもの。年齢で言うと50代くらいの方に多い疾患です。

更年期症状だと思って放っておかない。違う病気である可能性も探る

 実は更年期症状だと思っていたら、違う病気だったということはよくあります。女性だと、甲状腺の疾患やリウマチなどの自己免疫疾患、うつ病などといったものには注意をしましょう。女性は男性に比べて2倍もうつ病になりやすいと言われています。更年期だからと思って放っておかず、自身の体のチェックは必須です。いわゆる健康診断の項目で女性に多い病気は、チェック項目に入っていないことが多いのが現状です。女性は甲状腺、膠原病、乳がんなど、そういった病気になりやすいという視点で健康診断を受けましょう。それを受けた上でやっぱり疲れが取れない、頭痛がひどいということであれば更年期症状の可能性を踏まえて婦人科を受診し、治療を検討しましょう。

更年期症状や更年期障害は遺伝と関係がある?

 更年期症状や更年期障害が遺伝と関係があるのかと言うと、必ずしも遺伝するわけではありません。ただ、ストレスと深い関係があるため、ストレスを溜め込みやすい人の方が症状が出やすいということはあるかもしれません。ダイレクトに遺伝と関係するものではありませんが、生まれ育った環境や性格という意味では、なりやすい人はいるということがあるかもしれないでしょう。
 更年期障害という言葉だけが一人歩きし、なんでも更年期障害ということにしないようにしましょう。きちんとした情報を得て理解することで、漠然とした怖さや不安は無くなります。
ちゃんと知ることで、更年期症状や障害の兆候があったときに”我慢をするしかない”ではなく、治療でかなりの症状が改善するということを知っておきましょう。その上で、ストレスが更年期症状の引き金になるということを理解し、自分自身のストレス発散方法を知っておくことが大切です。

大事なのはかかりつけの婦人科をつくること

 更年期症状にある、「なぜか落ち込む」「夜眠れない」などを我慢する人が多いのですが、どういったタイミングで婦人科に行けばいいのでしょう。
それはこの記事を読んだタイミングで!というのが答えです。
また、娘さんがいる人は初潮が来たらかかりつけの婦人科を作りましょう。10代で月経痛がある場合は、卵巣嚢腫に2.6倍なりやすいというデータもあります。さらには、低用量ピルとの付き合い方を知っておくことで、大変な受験の時や就職活動中に月経を避けることもできます。また、性交渉によって感染するHPV(ヒトパピローマウィルス)を予防するワクチン、”HPVワクチン”の情報などを知ることもできます。
 定期的に行くかかりつけの婦人科をおすすめする理由は、「最近月経量が増えた」などのちょっとしたことでも相談がしやすいからです。今、日本では婦人科が増えているので、相性がいいと思う先生を見つけることはとても大事です。虫歯予防で定期的に歯医者に通うのと同じような感覚で、かかりつけの婦人科を見つけることで小さな違和感から早めに対処できるのです。